就業規則は、作成しただけでは足りません。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、事業場ごとに管轄の労働基準監督署へ届け出る義務があり、変更したときも同様です(労働基準法89条)。
届出には「就業規則本体・労働者代表の意見書・届出書」の3点が必要で、届出を怠ると30万円以下の罰金の対象になります。届出に必要な書類、記載すべき事項、作成から意見聴取・労基署への提出・社内周知までの手順、提出方法(窓口・郵送・電子申請)、複数事業場の本社一括届出まで、企業経営者の視点で弁護士が解説します。
就業規則を作ったら、必ず届け出る必要がありますか?
常時10人以上の事業場では必要です。就業規則は作成・変更したら、事業場ごとに管轄の労働基準監督署へ「遅滞なく」届け出なければなりません(労基法89条・施行規則49条1項)。従業員へ周知しても届出をしないと違法状態となり、30万円以下の罰金の対象になります。届出をしなくても就業規則自体が無効になるわけではありませんが、義務違反であることに変わりありません。
意見書に労働者代表が「反対」と書いたら、届出できませんか?
できます。届出に必要なのは労働者代表の「意見書」であって、同意ではありません。反対意見が書かれていても、そのまま提出すれば届出は受理されます。代表者が意見書の署名に協力しない場合でも、意見を聞いたことを客観的に証明できれば、意見書の添付なしで受理されると解されています。ただし不利益変更のときは、反対意見が変更の有効性を判断する一事情になり得ます。
- 労働基準法89条(就業規則の作成・届出義務/常時10人以上)/90条(労働者代表の意見聴取・意見書の添付)/106条(周知義務)/120条(30万円以下の罰金)
- 労働基準法施行規則49条1項(「遅滞なく」届け出る)/フジ興産事件(最判平15・10・10。周知していない就業規則は拘束力が否定される)
就業規則とは何か?
就業規則とは、労働時間・給与・休日などを定めた会社内のルールです。従業員の労働条件の最低ラインとなるだけでなく、従業員の問題行為を懲戒するための根拠にもなります。就業規則は、労務管理を適切に行うための重要な役割を果たします。
就業規則は労基署へ届け出る必要がある
常時10人以上の従業員を雇用する使用者は、事業所ごとに就業規則を作成しなければなりません。そして作成しただけでは足りず、管轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。変更した場合にも労基署への届出が必要です。従業員への周知を行っても「届出」をしないと違法状態となるため、届出を怠らないよう注意しましょう。10人未満で作成・届出義務がない場合でも、労務管理のために就業規則は作成しておくことが大切です。
「常時10人以上」の数え方
就業規則の届出に必要な3つの書類
作成・変更した就業規則本体。賃金規程・退職金規程・育児介護休業規程・ハラスメント防止規程などの社内規程、非正規社員用の就業規則も一部として合わせて提出します。
労働者代表(過半数組合、なければ過半数代表者)の意見を記載した書類。署名押印してもらいます。
所定の書式で作成する届出書。部分変更のときは新旧対照表を記載した変更届も認められます。
就業規則に記載すべき事項(3分類)
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 絶対的必要記載事項 (必ず記載) | 労働時間等:始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替勤務の要領/賃金等:決定・計算・支払の方法、締切り、支払時期、昇給/退職:任意退職、解雇、定年など |
| 相対的必要記載事項 (定めるなら記載) | 退職金:適用範囲、支給条件、計算・支払方法・時期/臨時の賃金:支給条件・支払時期、最低賃金額/その他:食費・作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、業務外の傷病扶助、表彰・制裁、懲戒事由と懲戒処分 |
| 任意的記載事項 (任意) | 服務規律など、記載してもしなくてもよい事項 |
必要的記載事項の一部を欠いても就業規則全体が無効になるわけではありませんが、内容は労働基準法その他の法令に沿ったものである必要があります。労働法令は毎年改正されるため、改正内容を確認しながら見直すことが求められます。作成には弁護士や社会保険労務士など専門家への依頼を検討しましょう。
意見書の実務ポイント
- 署名押印してもらうのは、過半数組合、なければ民主的に選ばれた過半数代表者(管理監督者は代表者になれない)
- 記載事項は「就業規則に対する意見」「代表者の職名・氏名」「代表者の選出方法」
- 意見は「特になし」でもよく、同意は不要。反対意見でもそのまま提出すれば届出は受理される
- 代表者が署名に協力しない場合でも、意見を聞いたことを客観的に証明できれば添付なしで受理され得る
就業規則の届出の手順
- ① 就業規則を作成・変更する法律上必要な記載事項に注意し、漏れや間違いがないよう慎重に内容を検討します。自社のニーズに合ったものにします。
- ② 労働者側と協議する労働者側の意見を聞きます。なるべく社員の合意を得るのが望ましく、特に不利益変更の場合は個別に協議して理解を求めます。
- ③ 意見書を作成する労働者代表に署名押印してもらい、意見書を作成します。届出時に一緒に提出します。
- ④ 就業規則(変更)届を作成する所定の書式で作成します。部分変更なら新旧対照表を記載した変更届も可。
- ⑤ 管轄の労働基準監督署へ提出する就業規則本体・意見書・その他添付書類を管轄の労基署へ提出します。各書類は2部用意し、1部は届出用、1部は受付印をもらって会社の控えとして保管します。
- ⑥ 従業員に周知させる使用者は就業規則を従業員に周知させる義務を負います(労基法106条)。周知していない就業規則は拘束力が否定されます(フジ興産事件 最判平15・10・10)。
就業規則の提出期限はある?
就業規則の届出に、特に期限は設定されていません。ただし「遅滞なく」提出すべきとされています(労働基準法施行規則49条1項)。作成・変更が完成したら、なるべく早めに届け出ましょう。なお、就業規則の施行日前でも届出は可能です。
届出をしないとどうなる?(罰則)
提出方法は3つ(窓口・郵送・電子申請)
管轄の労基署へ持参。必要部数を印刷して出向くため、印刷コストと移動コストが発生します。
会社控えを返送してもらうため、返信用封筒と切手を必ず同封。移動コストはないが郵送コストがかかります。
移動・郵送・印刷コストが不要。Word/PDF形式の就業規則を添付すれば足ります。事前にe-Gov(電子政府の総合窓口)のアカウント登録が必要です。
複数事業場は「本社一括届出」が使える
就業規則は会社単位ではなく事業場単位で届け出ます。10人以上の事業場が複数ある場合、その数だけ届出が必要で手続が煩雑です。そこで、一定の要件を満たせば、本社以外の事業場分も本社で一括して提出できる「本社一括届出制度」を利用できます。
本社一括届出の要件
- 本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同一の内容であること
- 事業場の数と同じ部数の就業規則と意見書を準備すること(同一管轄内に複数事業場があれば就業規則は1部でよいが、意見書は事業場ごとに必要)
- 本社以外の対象事業場の名称・住所・管轄労基署名を列記した一覧表を作成すること(厚生労働省の作成ツールを利用)
一括届出に必要な書類
- ①本社の就業規則・意見書・届出書 各2部
- ②対象事業場の一覧表 2部
- ③対象事業場の意見書
- ④対象事業場の就業規則(事業場の管轄監督署ごとに1部)
よくある質問(FAQ)
就業規則の作成・届出は弁護士にご相談ください
就業規則の届出は、記載事項の漏れ・意見書の不備・周知義務違反があると、後の労使トラブルで会社に不利に働きます。会社の実態に沿った作成から、意見書・届出書の準備、電子申請・本社一括届出の代行まで、企業経営者の立場で弁護士がサポートします。大阪・なんば/心斎橋の難波みなみ法律事務所へ。初回相談30分無料・来所不要・zoom/電話対応。
※本記事は一般的な解説であり、個別の事案では届出の要否・手続きは具体的な事情により異なります。就業規則の作成・届出、意見書・届出書の準備、本社一括届出については、監修弁護士(難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝/大阪弁護士会)にご相談ください。

