「懲戒解雇にすると、失業保険(失業手当)はもらえなくなるのか」——経営者からも従業員からもよく寄せられる疑問です。
結論として、懲戒解雇でも失業保険を受け取れる場合はあります。ただし、雇用保険上の「重責解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇)」に当たると、給付制限や給付日数の面で自己都合退職と同様の扱いになります。懲戒解雇(労働契約法上の概念)と重責解雇(雇用保険上の概念)は別物で、判断基準が異なる点が最大のポイントです。
本記事では、懲戒解雇と失業保険の関係、重責解雇となる条件、離職票(離職理由・コード・添付書類)の書き方、退職金の扱い、そして懲戒解雇が有効となる要件まで、企業側の顧問弁護士の視点で解説します。
いいえ、もらえなくなるわけではありません。懲戒解雇でも、雇用保険の被保険者期間などの受給要件を満たせば失業給付を受けられます。ただし、雇用保険上の「重責解雇」に該当すると、給付制限(3か月)がかかり、受給に必要な加入期間や所定給付日数も会社都合(特定受給資格者)より不利になります。懲戒解雇=必ず重責解雇、ではない点に注意が必要です。
この記事のポイント
- 懲戒解雇(労働契約法上の概念)と重責解雇(雇用保険上の概念)は別物で、判断基準が異なる
- 重責解雇に該当すると、給付制限(3か月)や給付日数の面で自己都合退職と同様の扱いになる
- 離職票の離職理由は、重責解雇ならコード5E、通常の解雇ならコード1A(特定受給資格者)。最終判断はハローワーク
- 懲戒解雇で退職金を不支給・減額にするには、就業規則の定めと「功労を抹消するほどの重大な背信」が必要
- 懲戒解雇が有効となるには、客観的合理性・相当性・告知聴聞(弁明)・就業規則の定めが必要
懲戒解雇とは、企業秩序に対する重大な違反行為に対する制裁(懲戒処分)として行う解雇で、懲戒処分の中で最も重い処分です。普通解雇(能力不足・傷病など労働者側の事情による解雇)とは、いずれも会社が一方的に労働契約を終了させる点で共通しますが、懲戒解雇は「解雇」と「懲戒処分」の両方の性格を併せ持つため、より厳格な要件が求められます。
| 比較項目 | 普通解雇 | 懲戒解雇 |
|---|---|---|
| 就業規則の 懲戒事由の定め | 不要(ただし常時10人以上を使用する事業場は就業規則自体が必要) | 必要(定めのない事由では懲戒できない) |
| 有効性の判断 | 規律違反の態様・程度・回数、改善の余地・機会の付与を考慮 | より厳格に解釈。行為の内容・態様、企業秩序違反の程度、処分選択の相当性、他の懲戒処分との均衡なども考慮 |
| 手続 | 協議・同意条項があれば遵守。即時解雇は不可(予告か予告手当) | 普通解雇と同様+弁明の機会など適正手続 |
| 退職金 | 原則支給 | 全額不支給とされるのが一般的(ただし判例上は制限あり/SEC08) |
| 失業手当 | 給付制限なし | 重責解雇なら給付制限3か月 |
懲戒解雇にも労働契約法16条 労契法16条 が適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効です。懲戒解雇は要件が厳しく、安易に行うと不当解雇として争われるリスクが高い点に注意してください。
解雇は本来、会社都合による離職であり、失業保険では手厚い特定受給資格者に当たるのが原則です。しかし、労働者側の責任が重い場合(重責解雇)には、自己都合退職と同様の扱いになり、失業保険を受給できる条件や内容が変わります。
「懲戒解雇」と「重責解雇」は別の概念
懲懲戒解雇
- 労働契約法上の概念
- 就業規則に基づく懲戒処分
- 会社が「制裁」として行う解雇
- 有効・無効は裁判所が判断
重重責解雇
- 雇用保険(失業保険)上の概念
- 「自己の責めに帰すべき重大な理由」による解雇
- 失業給付の給付制限に関わる区分
- 該当性はハローワークが判断
両者は判断基準が異なるため、会社が懲戒解雇を行っても、雇用保険上の重責解雇に当たるとは限りません。懲戒解雇でも、ハローワークが重責解雇と認定しなければ、通常の解雇(給付制限なし)として扱われることもあります。
離職理由の区分によって、受給に必要な加入期間・待期期間・給付制限・所定給付日数が変わります。重責解雇は、給付制限と給付日数の両面で会社都合より不利になります。
| 区分 | 受給資格 (被保険者期間) | 待期 | 給付制限 | 所定給付日数 |
|---|---|---|---|---|
| 会社都合退職 (特定受給資格者) | 離職前1年間に6か月以上 | 7日 | なし | 90〜330日 (年齢・加入期間による) |
| 重責解雇 | 離職前2年間に12か月以上 | 7日 | 3か月 | 90/120/180日 (年齢差なし・最大180日) |
| 自己都合退職 | 離職前2年間に12か月以上 | 7日 | 原則1か月 (2025.4〜) | 90/120/180日 |
※ 2025年4月の改正で、正当な理由のない自己都合退職の給付制限は原則2か月から1か月へ短縮されました。重責解雇はこの短縮の対象外で、給付制限は3か月のままです。給付制限の取扱いは改正されることがあるため、最新は管轄のハローワークでご確認ください。基本手当日額は毎年8月1日に改定されます。
弁護士からのワンポイント
重責解雇に当たると、受給開始まで待期7日+給付制限3か月があり、所定給付日数も会社都合(最大330日)から最大180日へ大きく減ります。労働者にとって影響が大きいため、離職理由の記載(離職票)をめぐって会社と争いになることがあります。会社としては、懲戒解雇の事実と理由を正確に記録し、裏づけ資料を保管しておくことが重要です。
ハローワークが重責解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇)と判断する主な類型は、次の7つです。いずれも該当性は慎重に判断されます。
重責解雇となり得る主な類型
- 職務に関連する犯罪行為があった場合
- 故意・重過失により設備や器具を破壊した場合
- 故意・重過失によって事業所の信用を失墜させた場合
- 重大な就業規則違反をした場合
- 会社の機密を漏洩した場合
- 会社の名を騙り、不正を働いた場合
- 経歴を詐称していた場合
①の犯罪行為は、判決で刑が確定してはじめて重責解雇の適用を検討します。逮捕・起訴されただけで刑が確定していない段階では、重責解雇とはなりません。
懲戒解雇をした場合、会社は雇用保険の資格喪失手続きを行い、離職証明書を提出します。ここで記載する離職理由が、本人の給付制限や給付日数を左右するため、正確な記載と証拠の準備が重要です。
離職理由の区分と離職理由コード
離職証明書の離職理由欄では、次のように区分します(コードは実務上の分類の一例で、最終的な区分はハローワークが決定します)。
| ケース | 離職理由コード | 資格区分・給付制限 |
|---|---|---|
| 解雇 (重責解雇を除く) | 1A | 特定受給資格者/給付制限なし |
| 重責解雇 (重大な責による) | 5E | 一般の受給資格者/給付制限3か月 |
会社が「重責解雇(背任行為・懲戒事由に基づく重大な責による退職)」に当たると考える場合は、5Eとして、その具体的な事情を記載します。もっとも、重責解雇に該当するかどうかは最終的にハローワークが判断するため、会社の記載どおりに認定されるとは限りません。
重責解雇として提出する際の添付書類
重責解雇と主張する場合、ハローワークから「重大な責」を裏づける資料の提出を求められます。あらかじめ次の資料を準備しておきましょう。
主な添付・準備書類
- 就業規則(懲戒解雇事由の定めがある部分)
- 解雇通知書・懲戒解雇の辞令
- 懲戒解雇に至った事実・経緯を示す資料(始末書、調査報告、証拠など)
- 弁明の機会を与えたことがわかる資料(弁明書・議事録など)
- (通常の添付)賃金台帳・出勤簿/タイムカード・労働者名簿(離職前2年間分)
離職票はいつ届く?届かないときは
会社は原則、退職日の翌日から10日以内にハローワークへ離職証明書等を提出します。その後、離職票が会社経由または本人へ交付されます。「離職票が届かない」というトラブルは会社の手続き遅れが原因のことが多く、退職者から請求があれば会社は交付に応じる義務があります(正当な理由なく交付しないと罰則の対象となり得ます)。
離職票の離職理由には、本人が事実と異なると考える場合に異議を申し立てる欄があります。会社は事実に基づいて記載し、裏づけ資料を保管しておきましょう。安易に「会社都合」とするのも、逆に根拠なく「重責解雇」とするのも、後の紛争のもとになります。
問題社員から、「退職理由を『会社都合』にしてくれるなら争わない」と持ちかけられることがあります。失業保険や退職金で有利になるためですが、対応は慎重に判断すべきです。
「会社都合」と虚偽記載するリスク
実態が本人の責に帰すべき事由による退職であるのに離職票を「会社都合」と記載すると、後日かえって紛争を招くリスクがあります。会社都合退職は実質的に解雇と同じであるため、本人が解雇無効訴訟等を起こしてきた場合に、裁判所から「会社都合と記載しながら合理的理由を欠く解雇をした」と厳しく追及されるおそれがあるのです。
懲戒解雇か合意退職か——双方のメリット・デメリット
懲懲戒解雇
- 有効性が争われるリスク(労契法16条)
- 要件・手続のハードルが高い
- 退職金は不支給・減額の余地
- コンプライアンス上の姿勢は明確
合合意退職
- 解雇の有効性は争われにくい
- 原則退職金の支給義務が生じる
- 悪質な行為者への「優遇」で示しがつかない場合も
- 離職理由の記載は要注意
どちらか一方が常に正解というわけではなく、不祥事の重大性・証拠の有無・紛争リスクを総合考慮して選びます。合意退職を選ぶ場合は、退職に合意したこと・会社に何ら請求権を有しないことを確認する書面(確認書)への署名を条件とし、本人が真意(自由意思)に基づいて受け入れたと認めるに足りる客観的な理由を残しておくことが大切です。
弁護士からのワンポイント
「離職票の記載」だけを軽く考えて安易に妥協すると、退職金・失業保険・のちの訴訟まで影響が及びます。懲戒解雇と合意退職のどちらで進めるか、離職理由をどう記載するかは、証拠と紛争リスクを踏まえて事前に弁護士へご相談ください。
給付額の計算方法
- 基本手当の総額=基本手当日額 × 所定給付日数(離職理由により変動)
- 振込は原則28日ごと。基本手当日額は毎年8月1日に改定
- 重責解雇の場合、待期7日+給付制限3か月を経てから受給が始まる
失業保険に関する手続きの流れ
会社と本人が行う手続き
- 会社が離職証明書・資格喪失届を作成し、ハローワークへ提出(退職日の翌日から10日以内が目安)
- ハローワークから離職票が交付され、本人へ渡る
- 本人がハローワークで求職の申込みを行い、離職票を提出
- 雇用保険説明会に参加
- 失業認定(原則4週間ごとに求職活動を確認)
- 認定後、基本手当が受給される(重責解雇は給付制限3か月経過後)
実務上、懲戒解雇では退職金を全額不支給とするのが一般的とされます。もっとも、「懲戒解雇だから当然に退職金は払わなくてよい」と考えるのは危険です。裁判では、次の条件を満たすかが厳しく審査されます。
退職金を不支給・減額とするための条件
- 退職金規程に不支給・減額の定めがあること
- 労働者に、これまでの功労を抹消・減殺するほどの重大な背信行為があること
退職金には「賃金の後払い」と「功労報償」の性格があるため、背信の程度によっては一部支給が命じられることもあります。全額不支給とする場合は、とくに慎重な判断が必要です。
弁護士からのワンポイント
退職金の不支給・減額は、後から労働者に争われやすい論点です。規程の整備と、背信行為の重大性を示す証拠が揃っているかを、処分の前に弁護士に確認することをおすすめします。
懲戒解雇は最も重い処分であり、有効と認められるハードルは高く設定されています。次の要件をすべて満たす必要があります。
懲戒解雇が有効となる主な要件
- 就業規則に懲戒の種類・事由が定められ、周知されていること
- 問題行為が就業規則の懲戒事由に該当し、客観的に合理的な理由があること
- 処分が行為に照らして重すぎない(社会通念上の相当性)こと
- 本人に弁明の機会(告知・聴聞)を与えるなど適正な手続を踏むこと
要件を欠く懲戒解雇は無効(不当解雇)となり、解雇日から解決までのバックペイや解決金など、会社に大きな負担が生じます。懲戒解雇は普通解雇よりも無効になりやすいため、実務では退職勧奨や普通解雇、合意退職も含めて検討することが多くあります。
関連:不当解雇のリスクは「不当解雇とは?」、解雇予告手当(懲戒解雇でも除外認定がなければ必要)は「解雇予告手当とは?」、無断欠勤を理由とする場合は「無断欠勤をする社員の対応」、懲戒処分全般は「懲戒処分とは」、副業を理由とする解雇・懲戒処分は「副業を理由に解雇・懲戒処分できる?」、譴責(けん責)と戒告の違いは「譴責(けん責)とは?」、社内不倫を理由とする懲戒処分・解雇は「社内不倫で解雇・懲戒処分できる?」で解説しています。
関連:懲戒解雇で会社側に生じるバックペイ・解決金・助成金などのデメリットは「懲戒解雇の会社側のデメリット」で詳しく解説しています。
懲戒解雇をすると失業保険は一切もらえなくなりますか?
いいえ。受給要件(被保険者期間など)を満たせば失業給付は受けられます。ただし雇用保険上の「重責解雇」に当たると、給付制限(3か月)がかかり、加入期間の要件や所定給付日数が会社都合より不利になります。
懲戒解雇であれば必ず重責解雇になりますか?
なりません。懲戒解雇は労働契約法上の概念、重責解雇は雇用保険上の概念で、判断基準が異なります。会社が懲戒解雇としても、ハローワークが重責解雇と認定するとは限りません。
懲戒解雇の場合、離職票の離職理由コードは何になりますか?
重責解雇に当たる場合は「5E(背任行為・懲戒事由に基づく重大な責による退職)」、重責解雇に当たらない解雇は「1A(特定受給資格者)」が基本です。会社が記載した後、最終的な区分はハローワークが判断します。
失業保険の給付制限はいつからいつまでですか?
重責解雇の場合、7日間の待期期間の後、3か月間の給付制限があり、その経過後に受給が始まります。自己都合退職は2025年4月以降、原則1か月に短縮されていますが、重責解雇は短縮の対象外です。
重責解雇の対象になるとどのくらい給付が減りますか?
所定給付日数が会社都合(最大330日)から、重責解雇では年齢差なく最大180日(1年未満90日・1〜5年120日・5年以上180日)に減ります。受給に必要な加入期間も、離職前2年間で12か月以上と厳しくなります。
「会社都合にしてほしい」と言われたら応じてよいですか?
実態と異なる「会社都合」の記載は、後の解雇無効訴訟などで不利に働くリスクがあります。合意退職を選ぶ場合も、退職金の支給義務が生じる点や、権利放棄の確認書への署名などを踏まえ、弁護士に相談して判断することをおすすめします。
懲戒解雇なら退職金を支払わなくてよいですか?
当然に不支給とはできません。退職金規程に不支給・減額の定めがあり、これまでの功労を抹消するほどの重大な背信行為があると認められる場合に限られます。全額不支給は慎重な判断が必要で、一部支給が命じられることもあります。
懲戒解雇でも解雇予告手当は必要ですか?
労働基準監督署長の「解雇予告除外認定」を受けていなければ、懲戒解雇でも解雇予告(または予告手当)が必要です。除外認定は簡単には下りないため、手当を支払って解雇するケースも多くあります。
懲戒解雇の判断・進め方は弁護士に相談を
懲戒解雇は要件が厳しく、無効となれば会社に大きな負担が生じます。失業保険(重責解雇)の離職理由・離職票の記載や退職金の扱いも争いになりがちです。処分の前に、まず弁護士にご相談ください。難波みなみ法律事務所は企業側の顧問弁護士として、懲戒処分の可否判断から手続きまでサポートします。
初回相談30分無料|お問い合わせはこちら※本記事は一般的な法令・実務に基づく解説です。失業保険の給付制限期間・給付日数・離職理由コード等の最新の取扱いはハローワーク、個別事案の判断は弁護士にご確認ください。

